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仙台高等裁判所 昭和26年(ナ)11号 判決

原告 平尾吉郎 外一名

被告 青森県選挙管理委員会

一、主  文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は、「昭和二十六年四月三十日に執行された青森県議会議員選挙における青森県上北郡地区候補者鈴木[禾農]の当選を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、原告等は昭和二十六年四月三十日執行された青森県議会議員選挙の選挙人である。右選挙において、上北郡地区における候補者は別紙候補者一覧表記載のとおりであるが、選挙会は鈴木[禾農]の得票を総計三千九百二十票と算定し、同人を当選者(最下位)と定めた。原告等は同人の当選の効力に関し昭和二十六年五月十三日被告に対し異議申立をしたところ、被告は同年六月九日右異議申立を理由なしとして棄却し、右決定書は同月十二日に原告等に送達せられた。しかし、鈴木[禾農]の前記得票中には野辺地町開票区における同人の得票二千五百七票を含むが、その中の

(イ)  「鈴木ノウ」又は「スズキノウ」と記載したもの 六百七十七票

(ロ)  「スズキノ」又は「鈴木ノ」と記載したもの      十四票

(ハ)  「ノウ」又は「のう」と記載したもの      二百四十五票

(ニ)  「スズキウン」と記載したもの             一票

(ホ)  「スズキソウ」と記載したもの             一票

(ヘ)  「シジキ……以下不明」のもの             一票

(ト)  「ソウ」と記載したもの                一票

(チ)  「鈴木茂」と記載したもの               一票

(リ)  「しげる」と記載したもの               一票

(ヌ)  「スブキノ」と記載したもの              二票

(ル)  「スノ」と記載したもの                一票

(ヲ)  「ノワ」と記載したもの                一票

以上合計九百四十六票は次の理由により無効である。即ち、鈴木[禾農]の名は通常「しげる」と称し、「ノウ」と呼ばれていない。文字解釈からみても「[禾農]」は「しげる」と読み、又「ヂヨウ」「ジヨウ」とも音読するけれども、「ノウ」という音のでる理由がない。又同人はこれまで「ノウ」という通称を用いたこともない立候補届出に際しても、「ノウ」又は「ノー」と呼名又は通称を届出した事もなく、投票所に掲げてある立候補者一覧表にも、同人の氏名には「ノウ」又は「ノー」と振仮名し、これを周知させた事実もない。従つて、前記(イ)、(ロ)、(ハ)の記載は「しげる」に何等の縁もない名前であつて、結局候補者の何人に投票したか判定しがたいから無効である。又、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(ヌ)、(ル)の記載は鈴木[禾農]と同姓の候補者鈴木喜一郎とのいずれに投票したか判定しがたいから無効である。(チ)、(リ)の記載は、鈴木[禾農]の名「しげる」と同音の候補者小山田茂とのいずれに投票したか判定しがたいから無効である。(ヲ)の記載も候補者の何人であるか判定しがたいから無効である。以上無効投票合計九百四十六票を鈴木[禾農]に対する有効投票とせられた三千九百二十票から控除すると、二千九百七十四票となり、次点者三村泰右の得票数三千八百四十四票より八百七十票少い、よつて鈴木[禾農]の当選無効の裁判を求めるため本訴請求に及ぶ次第である。と陳述し、被告の主張事実を否認し、仮りに鈴木[禾農]が被告主張のように、選挙事務所の張札に「鈴木ノウ」又は「ノウ」と振り仮名して一般に周知させ、街路において、「鈴木ノウ」又は「ノウ」と投票するよう連呼した事実があつたとしても、社会一般に通つておらない一局部一時的な便法の「ノウ」又は「ノー」という名をもつてされた投票を有効視すべきでない。と述べた。(証拠省略)

被告訴訟代理人は、主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、原告等主張の事実関係は、鈴木[禾農]の名「[禾農]」は「ノウ」と音読されない、との点を除きすべて認める。鈴木[禾農]の得票中原告が無効であると主張するものゝうち(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(チ)、(リ)の六票が無効であることは被告もこれを争わないが、(イ)、(ロ)、(ハ)、(ヌ)、(ル)、(ヲ)の各投票はすべて無効ではない。鈴木[禾農]は自分の選挙用の自動車及び選挙事務所の張札などに「[禾農]の字に「ノウ」と振仮名して一般に周知せしめた事実もあり、又自分の名が難解であるので選挙人に対し、「鈴木ノウ」と書いて投票するよう街路において連呼した事実もある。かような事情からしても、(イ)、(ロ)、(ハ)、(ヌ)、(ル)、(ヲ)の各投票者の意思は、明に鈴木[禾農]に投票したことが窺われるのでいずれも鈴木[禾農]の有効投票と認めるのが至当であると述べた。(証拠省略)

三、理  由

原告等主張の事実関係については、鈴木[禾農]の名「[禾農]の字を「ノウ」と音読し得るかどうかの点を除いては当事者間に争がなく、原告が無効であると主張する投票中、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(チ)、(リ)の六票が無効と判断せらるべきものであることは、被告も争わないところである。

本件選挙に立候補した鈴木[禾農]の名「[禾農]が「しげる」と呼ばれることは被告も認めるところであつて、「[禾農]の字の漢音は「ヂヨウ」又は「ジヨウ」であるけれども、成立に争のない乙第五号証によれば、「[禾農]の字は「ノウ」とも音読せられることが認められる。のみならず「[禾農]」の字を「ノウ」と読むことが本来正しいかどうかは別として、その旁「農」が「ノウ」と読まれることは一般周知のことである関係上、「[禾農]」の字を「ノウ」と発音され勝ちであることは実験則上容易に推測し得るところであつて、現に成立に争のない乙第一乃至第三号証によれば、鈴木[禾農]は同一選挙区における候補者中に、名を同人と同じく「しげる」と発音する小山田茂、上平茂の両名があつたため、選挙運動に際し、自ら「スズキノウ」と呼称し、また張札等にも「[禾農]」の字に「ノウ」と振仮名をつけて一般に周知させていた事実が認められる。然らば、(イ)の「鈴木ノウ」又は「スズキノウ」と記載した六百七十七票は鈴木[禾農]に投票する意思をもつて記載せられたものと認むべきである。(ロ)の「スズキノ」又は「鈴木ノ」と記載した十四票は、他に「スズキノ」又はこれと類似音の氏名をもつ候補者がいないから「スズキノウ」又は「鈴木ノウ」の「ウ」を脱落したもの、(ヌ)の「スブキノ」と記載した二票は「スズキノウ」の第二字「ズ」を「ブ」と誤記し「ウ」を脱落したもの、(ル)の「スノ」と記載した一票は、他に「スノ」又はこれと類似音の氏名をもつ候補者がないから「スズキノウ」の姓と名の各頭字「ス」と「ノ」を記載したもの、(ハ)の「ノウ」又は「のう」と記載した二百四十五票は他に「ノウ」又はそれと類似音の氏名をもつ候補者がいないから鈴木[禾農]の名「[禾農]」を表示したもの、(ヲ)の「ノワ」と記載した一票は他に「ノワ」又はこれと類似音の氏名をもつ候補者がないから右「ノウ」を誤記したものと認められ、以上いずれも投票者は鈴木[禾農]に投票する意思をもつて記載したものと認むべきである。

原告等は、仮りに鈴木[禾農]が選挙事務所の張札に「鈴木ノウ」又は「ノウ」と振り仮名をして一般に周知させ、街路において「鈴木ノウ」又は「ノウ」と投票するように連呼した事実があつたとしても、社会一般にとおつておらない一局部一時的な便法の「ノウ」又は「ノー」という名をもつて為された投票を有効視すべきでないと主張するのであるが、仮令「[禾農]」を「ノウ」と音読することが社会一般にとおつておらず、一局部一時的な便宜のためにせられたとしても、選挙人が鈴木[禾農]に投票する意思をもつて記載したと認むべき本件の場合、これを有効と解するのに何等の妨げがないから原告等の右主張は採用できない。

然らば鈴木[禾農]の有効投票とせられたもののうち、無効であること当事者間に争のない(ニ)乃至(リ)の計六票を差し引いても鈴木[禾農]に対する有効投票は三千九百十四票となり次点者三村泰右の有効投票数三千八百四十四票よりも七十票多く、鈴木[禾農]が当選者であることに変りがない。よつて被告が鈴木[禾農]の当選に対する原告等の異議の申立を棄却したのは、結局正当であつて、本訴請求は理由がないから、失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 村木達夫 石井義彦)

(別紙省略)

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